これまでに薬剤を用いた遺伝子機能抑制実験により異体類における左手綱核pax6b発現はNoda1経路依存的に発現の誘導や維持が行われていると予想した。他魚種におけるpitx2、pax6のパラログを検索し発現動態を観察したところ変態期のゼブラフィッシュでは左右非対称なpitx2とpax6の発現は観察されなかったが、メダカやトラフグなど数種では異体類と類似した発現パターンが検出された。よって幾つかの硬骨魚類ではNoda1経路遺伝子の他に下流因子であるpax6も手綱核の機能的左右非対称性形成に関与する可能性が高いと予想した。一方異体類では変態期の左手綱核特異的なpitx2発現が抑制されると最終的な眼位定位方向がランダム化する。硬骨魚類に共通な脳の機能的左右差形成機構が進化の過程で一部変化することで、異体類特有な脳組織と頭部の形態的な左右非対称性形成機構が獲得されたものと推定している。 異体類の左右非対称な着色状態は両眼が位置する体側のみに成魚型黒色素胞が分布することによって形成される。これまでに変態前期に膜鰭基部において色素胞前駆細胞が両側的に存在している事が示されていたがその後の分化や移動、増殖過程などは不明であった。黒色素と黄色素の生合成必須補酵素遺伝子gch2の発現を精査したところ、成魚型色素胞の出現前から真皮層基底部および筋節中隔において将来の有眼側のみにgch2陽性細胞が分布していた。またgch2陽性細胞の一部はBrdU取り込み陽性であり、増殖能を有していた。異体類は与える餌料種によって着色の多寡が変化するが、成魚型黒色素胞を100%欠損する飼育区の仔魚ではgch2陽性細胞は真皮層にも筋節中隔にも出現しなかった。これらの結果から増殖能を有した成魚型色素胞前駆細胞は体表のみならず体幹の内部にも存在し、その分布に従って有眼側のみに成熟した色素胞が分布するものと推定される。
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