タンパク質に翻訳されないRNA、いわゆるnon-coding RNA(ncRNA)は遺伝子の発現制御に関与することが示唆されている。microRNA(miRNA)は、ncRNAの一種であり、ポストゲノム解析として近年急速に研究が進められている。本研究では、菌類におけるncRNAを介した遺伝子発現制御機構1を探るために、実験材料として、イネに感染して深刻な被害を与える植物病原菌類、イネいもち病菌を用いている。イネいもち病菌は、その経済的な重要性から、植物病原菌として初めて全ゲノムが解読され、植物病原糸状菌のモデル生物となっている。これまでに、イネいもち病菌から小分子RNAをクローニングし配列解析を進めてきた。 今年度は、イネいもち病菌のレトロトランスポゾン遺伝子のひとつ、「MAGGY」に着目し、そのMAGGYがどのように遺伝子発現制御を受けているのかを小分子RNAの検出によって解析した。MAGGYは、イネいもち病菌にコードされるLTR型レトロトランスポゾンの中で最もメジャーな遺伝子である。ノーザンプロット解析によってMAGGY由来の小分子RNAを検出した結果、約21塩基の明瞭なバンドが検出され、MAGGYが小分子RNAを介した遺伝子発現制御を受けていることが示唆された。さらに、それら小分子RNAをクローニングし、配列解析を行った結果、小分子RNAが生成される領域には偏りがあり、複数のホットスポットが存在することが示唆された。また、イネいもち病菌には、病原性が異なる多数の系統が知られている。そこで、複数の系統を用いて、RNAを抽出し、MAGGY由来の小分子RNAを検出した。その結果、興味深いことに、系統間によってMAGGY由来の小分子RNAの蓄積量が異なることが明らかになった。以上のように、本年度は菌類における小分子RNAを介した遺伝子発現制御に関して非常に興味深い知見を見出した。 これらの内容の一部については、本年度に行われた、国際微生物学会(International Union of Mycrobiological Societies 2011 Congress for Viology)において口頭発表した。
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