英語などに見られる地の文では通常、物語現在が外から客体化され、距離を取って表される。これに対して日本語においては主に内的焦点化に伴って語りの位置が物語世界の内部に入ってしまいやすい。日本語に特徴的なこの語り方を「オーバーラップした語り」と呼び、その特徴を記述した。その上で、中国語でも内的感情を表す際にのみ「オーバーラップした語り」になることを見た。その文法形式は、「日本語の場合と同じく思考主が三人称で現れない。また、語気助詞が頻繁に使われ、自問自答を行うような疑問文、および感嘆文の形式が多く取られる。逆に言えば人物の内的感情を表す場合か人物からの疑問、推測を表す形式に限られる。」と整理することができる。 中国語における自由間接話法の翻訳では、原文よりも完全な間接話法になることが多いこと、原文の三人称がそのまま残されていることを示した。一方で実際の中国語小説では、伝達節なしで内面が表出される際には思考主が三人称で現れないオーバーラップした語りになることを明らかにした。また、日本語のオーバーラップした語りの翻訳について、英語と中国語それぞれで用例を確認した。英語にする際には、基本的に外からの語りに変更するしかなく、場合によっては自由間接話法に翻訳される。中国語には日本語より限定的であるもののオーバーラップした語りがあるので、それに翻訳するか、外からの語りに変更するかのパターンがある。しかし中国語のオーバーラップした語りは内的感情を表す場合に使用されるものなので、前者の訳し方を選択した場合には内的感情が強く出すぎる傾向にあることを見た。
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