研究概要 |
研究代表者は、超対称性事象の探索を目的とした研究として、LHC加速器およびATLAS検出器を用いた実験と並行してポジトロニウムを用いた小規模実験を行っている。これは電子・陽電子による重心エネルギー1MeVの衝突型加速器実験に相当し、未知の新粒子を探索するのに適している。非常に残念なことに平成21年度にはLHC加速器は期待されていた物理実験を行うことはできなかったため、研究代表者は超対称性粒子が存在した場合には一般的に破れると予想されるCP対称性についてポジトロニウムを用いて研究を行い、過去の実験の7倍もの精度でポジトロニウムにおいてはCP対称性が保存されていることを示した。この実験の精度は、初めてCP対称性の破れが発見され、ノーベル賞を受賞したクローニンおよびフィッチの実験と同程度であり、ポジトロニウムという極めて単純な物理系においてこの精度でCP対称性の破れが発見されなかったということは、レプトン系におけるCP対称性の破れの有無という現代物理学の大問題との関わりにおいて極めて重要な意義を持っている。なお、この成果については、Physical Review Letters, Volume 81, 083401(2010)に掲載されている。 また、同様にポジトロニウムを用いた未知粒子の探索に関係し、ポジトロニウム超微細構造の測定実験も行い、日本物理学会(第65回年次大会)において発表を行った。この実験は、現在報告されているポジトロニウム超微細構造の実験値と理論値の間の3.9シグマもの大きなずれの原因を探るものであり、未知の新粒子がこのずれの原因の候補に挙がっている。現在進行中の実験であるが、必要な実験装置等の作製が順調に進んでおり、今後順次成果を発表していく予定である。
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