研究課題
本研究の目的は、地域の社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)が住民の健康に寄与するメカニズムを、一般的・全体的な視点ではなく、具体的な地理と歴史に照らして実証的に解明することである。本年度は、地理情報システム(GIS)を利用した近隣環境指標の開発と、それを用いた大規模疫学調査データの解析を中心に研究を実施した。また、社会関係資本論の枠組みを批判的に検討し、その理論的構図と課題を導出した。まず、調査対象地域の中で特異的に健康水準および社会関係資本の高い一つの地域があることを疫学調査データから確認し、さらに、当該地区の開発に関する歴史的経緯の調査と、関係者に対しておこなったインタビュー調査の内容をもとに、特定の地域においてなぜ豊かな社会関係資本がみられるのかについて議論を進めた。続いて、大規模疫学調査データにおいて利用可能な詳細な地理情報を用いて、周辺地域の環境(人口密度、道路の接続性、公園の有無、店舗・施設までの距離など)をGISにより測定し、各種の社会関係資本および健康指標との関連性を分析した。分析の結果、近隣の歩きやすさは社会関係資本の豊かさと関連しないこと、社会関係資本の多寡を規定する文脈的な要因として、居住地の開発時期や広域的な都市化の影響が考えられることを明らかにした。関連する分析として、GISから測定された近隣環境が、高齢者の身体活動やBMIと関連するのかどうかについても検討を進めた。また、社会関係資本論の理論枠組みを批判的に検討し、「曖昧さ」と「数量化」という一見相反する二つの特徴が循環的に作用することで、客観主義に基づく社会関係資本論が拡大してきた理論的構図を明らかにした。そのうえで、従来の社会関係資本論が抱える限界と、それを解消するための理路について理論的な検討を進めた。以上の研究成果については論文執筆を進め、国内および海外の学術雑誌に投稿した。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (8件)
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