研究課題
高純度シリコン単結晶が、僅かに含まれる原子空孔により、極低温において異常なソフト化を示すという超音波実験の結果が報告され、極低温での局所量子状態の基礎物理と、半導体基盤のシリコンウェハーにおける最先端欠陥観測技術への応用の両面から注目されている。このソフト化の物理を解明する為、微視的描像からのアプローチとして、先行理論を拡張した原子空孔のクラスターモデルを導入し、厳密対角化法を用いて電子相関・電子フォノン相互作用の効果を調べた。その結果、電気的に中性な電荷状態VOの基底状態は、電子相関効果でスピン1重項・軌道2重項になるが、電子フォノン相互作用によってスピン3重項・軌道3重項へ、さらに強結合領域ではスピン1重項・軌道3重項へと変化する事を明らかにした。この最後の状態は、non-dopedシリコンが示す磁場依存性のないソフト化を良く説明する。また、B-dopedシリコンにおいては、電子フォノン相互作用によって、電気的に+1価のV+状態が現れる事を示した。これらの結果は、先行研究の結果と対照的な反面、超音波実験の結果を良く説明し、極低温における強相関・強結合効果の重要性を表している。さらに、巨視的描像からのアプローチとして、シリコンの第一原理計算の結果を再現する強束縛模型を構築し、そこに原子空孔ポテンシャルを導入して完全結晶中に一個の原子空孔に対するGreen関数を求めた。得られたGreen関数から原子空孔準位の電荷状態及び多極子感受率の空間分布を調べた結果、電子密度の2割程度が5Åから20Åという非常に広範囲に分布しており、この広がりの効果によって、四極子を含めた高次の多極子感受率が異常に増大している事を明らかにした。さらに、負のスピン軌道相互作用の存在が示唆されている問題に対しては、点電荷模型を用いてスピン軌道相互作用を見積り、波動関数の広がりによって負の結合定数が得られる事を初めて示した。
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