私たちは、自分自身の記憶を意識的に参照することで、自分が何を知り、何を知らないのかを把握できるとともに、必要な知識の有無に基づいて柔軟な行動選択を行うことができる。自分自身の記憶過程にアクセスし、そのモニタリングや制御を可能にする認知機能は、心理学領域においてメタ記憶と呼ばれている。本研究は、サルを用いた神経生理学的手法により、この機能を担う神経機構の一端を明らかにすることを目的としている。実験には、画面上に呈示された手がかり刺激の「位置」を記憶する、視空間性ワーキングメモリ課題を用いた。メタ記憶能力を測定するため、手がかり刺激呈示後に数秒間の遅延をはさんだ後、一部の試行では記憶テストを受けるか回避するかをサル自身に選択させ(自由選択条件)、一部の試行では強制的にテストを受けさせた(強制テスト条件)。サルが記憶情報のモニタリングに基づいてテストを受けるか回避するかの判断を行えば、自由選択条件のテスト正答率が強制テスト条件のそれよりも高くなるはずなので、これを指標としてメタ記憶使用の有無を判定した。実験に用いた3頭のうち、1頭がこれに合致する行動を示したため、このサルの前頭連合野外側部から、課題遂行中の単一ニューロン活動を記録した。強制テスト条件における活動を用いて、各ニューロンの反応特性を解析したところ、遅延期に方向選択性を示すニューロンが複数存在した。空間情報の記憶に関わるこれらのニューロンについて、サルがテストを選択した試行と回避を選択した試行での活動を解析したところ、特に回避選択試行において、強制テスト実行時に観察された方向選択性が消失する傾向が観察された。この結果は、遅延期活動の方向選択性強度が「テスト/回避」の選択に影響を及ぼしている可能性を示しており、この強度をモニターする仕組みを明らかにすることが、メタ記憶の神経機構を解明する鍵になることが示唆された。
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