量子系では測定結果は確率的なふるまいを示すため、測定によって量子系についての情報を得るためには測定結果からの推定プロセスを考える必要がある。ある物理量の測定において、その量子測定がノイズを含まない場合は、推定プロセスは自明である(測定結果の平均値を計算すればよい)が、量子測定にノイズを含む場合はそのノイズが測定結果に与える影響を考慮する必要があるため、一般には推定プロセスは非自明になる。非可換な複数の物理量を測定する際には、それらの物理量の正確な測定は不確定性関係によって禁止される。したがって、非可換な物理量の同時測定は必ずノイズを含み、推定プロセスについての分析が不可欠である。 私は上に述べた考察から、非可換な物理量の測定誤差についての不確定性関係を、推定プロセスを含めて分析した。それによって、これまでに知られていなかった、測定誤差が満たすより強いトレードオフ関係を求めることに成功した。そのトレードオフ関係を表す不等式は、任意の量子状態および物理量に対して、等号を達成する測定が必ず存在するという点でこれまでに知られていたものよりも優れている。さらに、そのような測定が現在の実験技術を用いて実現可能であることも示した。近年、スピンスクイージングなどの非可換な物理量を同時に制御する技術が発展してきており、非可換な物理量を測定する最適な方法を示した私の結果は、今後の実験技術の発展に大きく寄与すると見込まれる。 現在、これらの結果を「Uncertainty Relation Revisited from Quantum Estimation Theory」というタイトルで論文を執筆中である。さらに、下記の研究発表欄にあるように多くの会議や研究会で発表し、大きな反響を得ている。
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