研究概要 |
1927年、ハイゼンベルグによって量子系の測定誤差と反作用による擾乱の間に不確定性関係が成り立つことが示唆された。 私は、量子論が統計的な性質を内在していることから、量子測定における誤差や擾乱を定式化するためには、測定データからの推定プロセスが本質的であることに着目した。そこで、統計学、特に量子推定理論を用いることで、任意の量子測定の誤差と測定の反作用による擾乱が、統計学で最も重要な量の一つであるFisher情報量を用いて定式化できることを示した。そして、それらの誤差と擾乱の間に成り立つ不確定性関係を導出することに成功した。 そこで導出された不確定性関係の下限は、これまでに予想されていた交換関係による下限よりも厳しいものであった。さらに、今回新しく導出された下限を達成する具体的な測定過程を構成することにも成功した。 重力波検出など超精密測定が必要となる実験においては、測定過程における誤差や擾乱を最小にすることが不可欠である。誤差と擾乱の間の達成可能な限界を示した私の研究結果は、今後のそれらの実験技術の発展に大きく寄与すると見込まれる。 本研究をまとめた博士論文によって平成23年度の東京大学の理学系研究科研究奨励賞を受賞した。また、KEK研究会「量子論の諸問題と今後の発展(QMKEK4)」や多くのセミナーで招待講演を行った。さらに、不確定性関係は物理学だけでなく人文・哲学分野にも大きな影響を与えたことから「Science of Philosophy of Science(旧:新しい科学哲学をつくる会)」の春合宿セミナーでも招待講演を行った。私の研究結果は、名古屋大学の小澤教授の主張とは完全に相反するものであることから、メディアからも注目され、日経サイエンス,東京新聞,朝日新聞などから取材を受け、日経サイエンス2012年4月号に私の研究内容が紹介された。
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