研究概要 |
本研究は,ステレオタイプ脅威の生起要因を明らかにすることを目標とする.ステレオタイプ脅威とは,他者評価が懸念される状況下において,"女性は男性に比べて数学ができない"というネガティブなステレオタイプに一致して,実際に女性の数学成績が低下してしまうという現象である.本年度は,特にステレオタイプ脅威現象における他者からの非言語シグナル(例:視線,表情)の役割に注目して心理学実験を行うとともに,実際の母子間インタラクションに関するフィールド調査を行ってステレオタイプの伝達・維持過程を探った. まず,大学生を対象として,ステレオタイプ脅威のシグナルとして視線図形を用いた実験を行い,他者視線の存在によって,女性の数学に対する潜在的意識にどのような影響が見られるかを検討した.その結果,他者視線が存在する状況下では,ステレオタイプに一致して,数学に対するネガティブな自己認知が促進されることが明らかになった. これと並行して,小学校5年生のこどもとその母親60組を対象としたフィールド調査を実施し,算数課題場面の母子間インタラクションおよび母親の潜在的ステレオタイプが,こどもの算数に対する意識や課題成績にどのような影響を及ぼすかを検討した.その結果,母親の潜在的な数学ステレオタイプが強いほど,女児の算数に対する自信が低く,それがさらに算数成績に影響を及ぼすことが明らかとなった.今後,特に非言語シグナルの役割に注目して母子間インタラクションの様子を詳細に分析し,その影響過程を検討する予定である. 以上,実験とフィールド調査の両面から検討を行うことで,ステレオタイプ脅威現象における他者からの非言語シグナルの効果を実証するとともに.実際の母子間におけるステレオタイプの伝達・維持の過程を明らかにすることができた,これはステレオタイプ脅威の解決に向けて意義ある知見を提供するものだと考えられる.
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