研究概要 |
本年度は,大きく分けて,(a)数学ジェンダーステレオタイプ("女性は数学が苦手である")が自己認知・課題成績に及ぼす影響に関する研究,および(b)システム正当化認知とジェンダーステレオタイプの関係についての研究の2つを行った. 前者(a)については,大学生男女を対象とした実験研究を行い,非言語シグナル(視線)が,女性の数学に対する自信の低下(潜在的自己ステレオタイプ化)を引き起こすことを明らかにした,加えて,昨年度行った親子調査のデータをコーディング・分析し,母親の潜在的ステレオタイプがこどもの自己評価や課題成績に影響を及ぼしていることを明らかにした、親子間の感情インタラクションのコーディング結果から,母親の潜在的ステレオタイプが強いほど,親子インタラクション時の女児のネガティブ反応が多いことが明らかになった.これらの結果は,潜在的ステレオタイプが女性の数学に関する自己認知・課題成績に影響を及ぼしていること,および,その際に他者からの非言語シグナル(視線,表情など)が重要な役割を果たしていることを明らかにした点で重要な知見だと考えられる.加えて,潜在的ステレオタイプの伝達過程においても重要な示唆を与えるものである. 後者(b)については,20~60代の男女約1000名を対象にインターネット調査を行い,"男女の関係は相補的で公平である"というシステム正当化認知傾向が強い者ほど,伝統的性役割を支持し,非伝統的性役割の人物(e.g.,働く女性)に対する偏見を示すことを明らかにした,このことは,男女の相補性に注目することがステレオタイプの維持につながることを示した点で重要な知見である.
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