キイロショウジョウバエの雄特異的筋肉であるローレンス筋は、支配運動ニューロンが雄(XY又はXO)である時に限り、そのニューロンによって誘導される。ローレンス筋支配運動ニューロンの"雄化"には性行動制御のマスタースイッチ遺伝子、fruitlessの活性が必須である。また、ローレンス筋形成には種間差が見られることが明らかになっている。ショウジョウバエ属にみられるローレンス筋形成の多様性はfruコード領域よりむしろ調節領域に原因があると考えDrosophila subobscuraのゲノム上のfruitless遺伝子の転写開始点から、6kb、12kb、18kb、31kbの上流配列をクローニングし、それぞれの配列についてGAL4コンストラクトを作成した。続いてこれらのコンストラクトをD.melanogasterのゲノムに挿入し、subobscura-fru上流配列-GAL4系統を確立した。こうして確立した系統とUAS-fru typeBMを強制発現させるための系統とかけ合わせることにより、fru typeBMをsubobscuraの推定調節配列の作用下に発現させ、ローレンス筋形成の変化を観察した。次年度からは、ローレンス筋を二対形成させる能力を有する上流配列に関して、さらに細分化していき、上述の作業を繰り返して、徐々にローレンス筋を二対形成するために必要な領域をしぼっていく。本研究は、fruitless遺伝子の機能的進化の解明に手掛かりを与え、性行動の多様化が種分化へとつながる機構を理解する第一段階となるであろう。
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