D.subobscuraのfru上流領域を各サイズに分けてD.melanogasterの個体内に導入し、fruの強制発現実験を行った結果、導入遺伝子作製のためにpPTGALベクターを用いた場合とP[acman]ベクターを用いた場合とで矛盾した結果が得られた。pPTGALベクターを用いた際には、D.subobscuraのfru上流6kbと2kbを用いた場合にローレンス筋がA4とA5に二対形成され、4kbを用いた場合はA5に一対形成されただけであった。上流わずか2kbの配列にMOL誘導能が存在する可能性が示唆されたことは、先行研究では決して見られなかった結果であり非常に興味深いものである。しかし、P[acman]ベクターを用いた際には6kb以上の配列を用いてもA5に一対のみ形成され、6kb以下では形成されなかった。このベクター間の結果の差は、それぞれの導入遺伝子が挿入されたサイトのゲノム環境の違いによって生じたと考えられた。つまり、ローレンス筋の形成率にはA4とA5それぞれにおいて閾値が存在すると仮定すると、pPTGALベクターの挿入しやすいサイトは転写活性レベルが高く、ひいてはGAL4の産生レベルが高いためにローレンス筋形成に十分量のFruが産生されたと考えられた。一方で、P[acman]ベクターの挿入点であるattPサイトの転写活性レベルは全体的にpPTGALベクターのものより低く、Fruの産生レベルがローレンス筋誘導の十分量に至らなかったと考えられた。今後はその仮説を検証する必要がある。この結果が得られれば、形態進化のメカニズムに新たなモデルを提案できるだろう。
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