有機電界効果トランジスタに関するミクロなキャリアダイナミクスからマクロな電気伝導特性までの総合的な理解を目的とし、下記の3項目に渡って研究を実施した。 1.電子状態の局在化に関する電界誘起電子スピン共鳴(FESR)研究 昨年(H20)度までの研究により、室温付近の温度領域では、キャリアはトラップに律速されながらも1nsオーダーの時間頻度でトラップ間を移動しており、いわゆるトラップ&リリース機構によって説明されることが明らかとなっている。本年(H21)度は、そのような伝導機構を引き起こす要因であるトラップについてより深い知見を得るために、キャリアがトラップからほとんど出てこられないような低温領域でのFESR測定を重点的に行った。その結果、測定したFESRスペクトルを詳細に解析することにより、トラップ状態の空間広がり分布や深さ分布に関する知見を得ることに成功した。 2.有機単結晶を用いた有機電界効果トランジスタのFESR研究 多結晶薄膜における結晶粒界の影響を調べるため、ルブレン単結晶試料とペンタセン薄膜試料を作製して比較実験を行った。FESRスペクトルのゲート電圧依存性、温度依存性は単結晶・薄膜ともに同様の傾向が見られ、FESRで観測されたキャリアダイナミクスが結晶粒界の有無によらない普遍的なものであることが明らかとなった。 3.電界変調分光を利用した周波数応答解析 FESR測定は結晶粒界の影響をあまり受けないことが明らかとなったが、一方で伝導特性は結晶粒界の影響を大きく受けると考えられる。結晶粒界の影響がどの程度あるかを調べるために電界変調分光測定を用いて空間分解周波数応答解析を行った。測定結果を等価回路モデルによるシミュレーションと比較し、議論を行った。
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