研究概要 |
前脳には体内時計遺伝子を制御するヘム結合時計遺伝子転写制御因子NPAS2がある。本研究では、NPAS2と相互作用するもう一方の重要な転写制御因子mPer2が時計遺伝子制御にどう関わるかを調べる。特に、mPer2によるヘムの結合、解離、輸送、水銀によるmPer2のヘム結合阻害、水銀により阻害された機能のNO及びチオールによる修復に重点を置き、それらの分子機構、及び動物行動学について研究する。本年度は、mPer2のPAS-Bドメインのヘム結合性について各種分光学的手法を用いて調べた。その結果、PAS-Bドメインのヘムの軸配位子の一つはヒスチジンであることが示唆された。さらに、いくつかの変異体を作製し軸配位子の同定を試みた。また、mPer2のアイソフォームであるmPer1及びmPer3のPAS-Aドメインのヘム結合性についても検討した。予備的な結果ではあるが、mPer1においてはシステインがヘムの軸配位子の一つであると推定された。mPer3はタンパク質の精製が非常に困難であったため、それ以上の結果を得ることはできなかった。また、水銀は脳内のタンパク質のシステイン残基と結合し、マウスの行動異常を引き起こすことが知られている。チオレート化合物であるmeso-2,3-dimercaptosuccinic acid(DMSA)をマウスに経口投与すると、水銀によって行動異常を引き起こしたマウスの状態を緩和することを動物実験により明らかにした。これらの結果から、タンパク質に結合した水銀がDMSAによって取り除かれ、正常の機能を持つタンパク質へと回復したことが示唆された。以上より、いくつかのヘム結合時計遺伝子制御因子が時間的・空間的に複雑に協奏して進行する体内時計のテンポの一部を解明し、水銀が体内時計を阻害して引き起こす精神的疾病の分子的機構解明の一翼を担うことができた。
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