研究課題
本研究では衝突天体物質と原始惑星大気の相互作用による生命前駆物質生成過程を実験的に調べることを目的としている。昨年度は宇宙科学研究本部における衝突実験施設のマシンタイムを確保し、本物の衝突実験によって衝突天体物質と原始惑星大気の相互作用を調べる実験を行うことができた。真空チェンバー内に原始地球大気を模擬したN_2ガスを封入し、隕石中の炭素物質を模擬したプラスチック弾丸を銅標的に斜め衝突させる。衝撃により粉砕された弾丸の破片群が衝突速度と同程度の速度で衝突方向下流側に飛び出し、周辺のN_2ガスから激しい空力相互作用を受ける。その結果、生命起源を考慮する上で最重要な物質の一つであるシアノ化合物のもととなるCNラジカルが生成する。生成した空力加熱蒸気を高速発光分光観測し、CN生成過程を詳細に調べた。発光スペクトルから空力加熱蒸気には(1)主要発光成分はCN及びC_2ラジカル(2原子分子)であり、原子由来の発光輝線がないことから原子化は起こしていないこと、(2)CNの振動状態は熱的非平衡状態にあることが示された。また、CNの並進回転温度がC_2のそれに比べて2000K程度も高いことが示された。並進回転状態の緩和時間は非常に短いので、温度が異なることはCN,C_2が空間的に分離されていることを示唆する。前述した2つの特徴とCN,C_2の並進回転温度の違いはN_2ガス中で黒鉛へのレーザー照射によって生成した高温蒸気と同様である。従って今回の分光観測から衝突生成蒸気中のCNとレーザー照射で生じるCNは物理的によく似た過程で生成されることが示されたと言える。我々は以前にレーザー照射実験で原始地球模擬大気中に局所的に高温のCNを生成すると高効率で最重要生命前駆物質であるHCNが合成されることを示した。今回の結果は実際の衝突現象においても高効率でHCNが生成される可能性が高いことを示している。
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Proceedings of Lunar and Planetary Science Confe rence XXXXI
ページ: #1785
Journal of Thermophysics and Heat Transfer 23
ページ: 463-472
Proceedings of 42th ISAS Lunar and Planetary Symposium (印刷中(掲載確定))