本年度の研究成果としては、以下の4点を挙げることができる。1、澁澤龍彦の表現活動におけるセクシュアリティに関する問題について、『唐草物語』という澁澤の小説の虚構生成の機構の検討を通じて、澁澤という作家自体が性的な思想、エロティシズムの体現者として読者に受容されたこと、それが単純な作家イメージの問題ではなく、存在論的なレベルにおいて生じた現象であったことを論じた。2、澁澤龍彦の表現活動における思想的な問題について、所謂「サド裁判」を対象に、その闘争過程を澁澤のエッセイ、裁判資料などの文献調査をもとに、弁護人と澁澤の闘争の差異を検討することで、澁澤の営為が「マゾヒズム」(西成彦の定義による)を活用した社会構築主義の暴力性に抗するものであったことを指摘した。3、「澁澤龍彦が形成した文化圏」の共通基盤となるジェンダー・セクシュアリティをめぐる認識及び思想について、澁澤責任編集の雑誌『血と薔薇』の調査・検討をおこない、男性同性愛の固有性の問題と女性嫌悪の問題系、現在の社会構築主義へのアンチテーゼという問題系の表象が展開された雑誌であることを論証した。4、「澁澤龍彦が形成した文化圏」を構成する芸術家の研究として、舞踏家である土方巽の研究をおこなった。慶應義塾大学アート・センター土方巽アーカイヴ等の所蔵資料の調査を踏まえて、とりわけ澁澤たちの土方への批評がもたらす効果という観点から分析・考察を行った。そこでは、差別とエロティシズムに関わる比喩表現から批評が構成されていることについて論究し、このことがセクシュアリティ論における「周縁的な性/生」という問題と関わるものであり、それを社会的に可視化するものであることが理解された。1及び2の成果の一部については、学会発表を行い、2及び4の成果の一部については、論文として発表した。
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