黄色ブドウ球菌はヒトの皮膚上や鼻腔内に常在しているが、免疫力の低い乳児や疾病患者に感染すると各種の外毒素を産生し、致死的な疾患を惹起する。加えて、容易に薬剤耐性を獲得するという特徴を持つことから、新たなアプローチによる黄色ブドウ球菌に対する抗菌剤の創製が社会的に強く求められている。病原因子の一つである莢膜は多糖類から構成される厚い膜で、黄色ブドウ球菌は莢膜で自身を保護し宿主の貧食活性から免れている。これらの莢膜は菌の表面に存在することためワクチン薬の標的として注目されているほか、黄色ブドウ球菌の生存に必須であることため、莢膜合成酵素を対象とした研究は莢膜合成を根本から阻害する薬剤の創製および莢膜発現の機序を解明する上で極めて重要な課題であると言える。本研究では、16種領存在する莢膜合成酵素のうち、莢膜を構成する単糖類の一つN-アセチル-L-フコサミンの合成を触媒する3つの酵素CapE、CapF、CapGを標的として構造、機能解析を目指している。 現在までにCapFのX線結晶構造解析と初期機能解析に成功しており、CapEとCapFの機能に相互作用が重要な役割を果たしていることが示唆されている。そこで、これらの相互作用の詳細な解析を基盤として、相互作用界面を標的とした新規な阻害剤の設計を目標としている。 当該年度において、CapEのX線結晶構造解析の回折データの解析、モデルの精密化を完了した。このモデルを基に、一次配列からは予測不可能であった、CapE-CapF間の相互作用界面の活性残基を予測し、変異体を用いた活性測定を進めた。これらの実験結果から、数多くの先攻研究があり、その機能について報告がなされている糖転移酵素の中でも、CapE、CapFが特徴的な活性制御機構を有していることが示唆されている。 また、阻害剤設計のためのスクリーニングの予備実験としてコントロール実験と系の確立を目指した条件検討を進め、当該年度の目的を概ね達成できた。
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