研究概要 |
非可換岩澤理論に於ける主要な課題として,非可換p進ゼータ関数の構成及び主予想の証明が挙げられる。この問題に関連して本年度は,総実代数体の総実なp進リー拡大で,ガロワ群が羃指数pの有限p群とp進整数環Zpの直積と同型となるものに対してp進ゼータ関数を構成し,さらにそれがジョン・ユーツ,深谷太香子,加藤和也,ラムドライ・スジャータ,オトマール・ヴェンヤコブが提出した非可換岩澤主予想を満たすことを証明した。非可換p進リー拡大に対するp進ゼータ関数は未だに統一的な構成法が知られておらず,今回の結果及び証明に用いられる帰納的議論は非可換p進ゼータ関数の構成問題に於いて有用な手法を齎すであろうことが期待される。今後より一般の非可換p進リー拡大(当面は羃指数がpとは限らない一般の有限p群とp進整数環の直積ないし半直積と同型となるような無限次ガロワ拡大)に対してp進ゼータ関数を構成する手法を開発することが課題である。また,L関数の特殊値の研究に関しては,ディヴィッド・バーンズとオトマール・ヴェンヤコブに依って近年導入された非可換拡大に対する降下理論を総実代数体の非可換岩澤主予想に対して適用することで,(同変)アルティンL関数の(ドリーニュが提唱した意味で)クリティカルな負の整数に対して同変玉河数予想のp部分が従うことを確認した,同変玉河数予想はL関数の特殊値を予想するものであるが,非可換係数のモチーフに対する結果は現在に至るまで殆ど得られていないのが現状である。総実代数体のアルティンL関数のクリティカル整数点での玉河数予想は,古典理論から岩澤主予想の降下に依って直接得られる最も単純な場合であると考えられており,今回確認した事項は,非可換岩澤理論が非可換係数のモチーフのL関数の特殊値の研究にも密接な関係を持つことを強く示唆する証拠と見做すことが出来る。
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