原始太陽系円盤内の物理的・化学的環境を明らかにするために、彗星の近赤外線高分散分光観測を行った。本年度は、すばる望遠鏡/IRCSとKeck2望遠鏡/NIRSPECを用いたC/2009P1(Garradd)彗星の観測、データ解析を行った。この彗星は太陽から遠い場所でも活発に彗星活動をしていたことから、長期間に渡り観測を行うことができた。他にもすばる望遠鏡/HDSや、京都産業大学神山天文台荒木望遠鏡/LOSA-F2を用いた可視光高・低分散分光観測も行った。また、昨年度に行った103P/Hartley2彗星の観測結果の論文に共同著者として参加している。この彗星はNASAの彗星探査ミッション「EPOXI」のターゲットでもあり、我々は探査機の彗星最接近時とほぼ同時刻の観測に成功している。このミッションにおいて、彗星核から氷微粒子が放出されていることや、核の非均質性などが確認されているが、我々の観測からも氷微粒子の存在が示唆されており、合わせて他の有機分子の化学組成比を求めた。また、本年度は日本の赤外線衛星AKARIの観測結果についても研究を進め、AKARI衛星における彗星CO_2の化学組成比サーベイの結果を国際学会にて報告している。CO_2は通常地上では全く観測できず、ほとんど研究されたことがない分子である。我々の観測結果から、彗星中のCO_2含有量は数%~30%程度であることがわかった。 本年度は今までの研究成果を博士論文としてまとめることができた。博士論文では、彗星氷の化学組成比、さらには彗星中に含まれている有機分子の生成反応と昇華温度から、原始太陽系円盤は大きくわけて3つの領域(H_2O rich、CO_2+H_2O rich、CO+CO_2+H_2O richの各領域)に分けることができ、それぞれの領域で物質は物理的・化学的に進化したという仮説を提唱している。
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