本研究は、葉原基内の異なる場所で同時に進行する細胞増殖と細胞肥大がいかに協奏的に制御されているのかを解き明かし、葉器官サイズ制御機構の実体を理解する目的で取り組まれている。初年度の今年は、当初の計画通り、解析に必要な形質転換体を全て整備し、熱処理依存的に葉原基内でAN3やKRP2の発現を誘導および抑制的に制御するCRE/Loxシステムを構築した。熱処理の方法、温度、時間、葉原基の発生段階といった様々な条件を検討することで、目的に応じてAN3およびKRP2の発現を操作する実験条件が確定した。 これらの実験系を用いて、AN3やKRP2の発現に関して、大きなセクター状の変異クローンもしくは変異をもった小さな細胞集団が斑状に存在するのキメラ葉を誘導し、クローン間での細胞サイズを比較した。その結果、以下に述べるような、非常に興味深い知見が多く得られた。(1)KRP2過剰発現により誘導される補償作用は細胞自律的であること(2)KRP2過剰発現で見られる異常な細胞肥大は、KRP2の直接的な機能によるものではなくて、細胞増殖能の欠損が原因であること(3)an3変異体で見られる補償作用は細胞間シグナリングを介して進行すること(4)誘導したキメラ葉では、an3の遺伝型が、細胞非自律的な細胞サイズ制御機構において優先的な機能をもつこと(5)この細胞間シグナリングは、中肋構造を越えることはできないことを明らかにした。これらの結果において特筆すべきは、細胞増殖と細胞肥大を協調的に制御する細胞間シグナリングの存在を明らかにした点である。多細胞生物の発生において、このような知見はこれまで知られていない。そこで、これらの結果を中心として投稿論文の準備を進めている。現在は、an3の補償作用でみられる細胞間シグナリングの特徴について、クローン解析を通じて詳細に解析をしており、次年度の課題とする。
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