葉の発生過程において、細胞増殖がある閾値以下に欠損した場合、その後の細胞肥大が異常に昂進する補償作用という現象が知られている。本研究課題ではこれまで、Cre/lox系により、ANGUSTIFOLIA3(AN3)遺伝子をキメラ状に発現する葉を人工的に誘導できる実験系を構築してきた。そして、キメラ葉の解析から、補償作用が細胞間シグナリングを介して進行することを明らかにしてきた。そこで本年度は、この未知なる細胞間シグナリングの性質を明らかにするために、さらに詳細なキメラ解析を行った。まずは、an3遺伝的背景でセクター状にAN3の発現する野生型の細胞が存在するキメラ葉を用いて、この細胞間シグナリングの影響する範囲を検討した。その結果、この細胞間シグナリングの影響は、およそ20細胞以上も伝播する非常に広範囲に及ぶものであることが明らかになった。ところが、中肋を境としてan3と野生型の細胞が分かれるキメラ葉を解析した結果、an3の細胞は補償作用を起こしているにも関わらず、野生型の細胞は補償作用を起こしていなかった。この結果は、an3変異により誘導される細胞間シグナリングは、中肋構造を超えて影響を及ぼさないこと示している。このように、葉身の半分をひとつのユニットとして機能する細胞間シグナリングはこれまでに知られていないことから、多細胞レベルで進行する葉の発生メカニズムを理解するうえで、新規の手がかりになると期待される。
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