昨年度までにHCV複製複合体においてATPレベルが亢進している可能性を示した。そこでATPレベルの亢進がHCVの複製に依存していることを確認するために、ウイルスのポリメラーゼ阻害剤を用いて複製を阻害した際のATPレベルの変化を解析した。その結果、HCVの複製を短時間阻害すると複製複合体のATP濃度はさらに亢進するが、長時間阻害すると定常状態に戻ることが確認できた。このことから、ATPレベルの亢進はHCVの複製に依存していることが確認できた。さらにミトコンドリアを染色したところ、ATPレベルが亢進している活性化状態にある複製複合体は、ミトコンドリアと近接していることが確認できた。HCV複製複合体にミトコンドリアから直接的にATPが流入している可能性が示唆された。ミトコンドリアのみならず、ERやゴルジ体、脂肪滴が局在や形態を変化させてHCVの複製及び粒子産生の場を構築している可能性が報告されており、HCVの生活環が細胞内オルガネラの局在に与える影響の一端として、有用な知見が得られたと考える。現在、ATP局在の撹乱がHCV粒子産生・分泌経路に与える影響について解析を行っている。以上の結果は本年度海外誌に発表した。 一方で、次世代シークエンサーを用い、パッケージングシグナル関連配列の探索を行なった。これまでのHCV研究では各塩基について優位に存在する塩基をつなげた、仮想的なコンセンサス配列が主に用いられてきた。本年度、複数の次世代シークエンサーと従来のPCR法を組み合わせることで、一患者由来の血清中に存在するHCVのゲノム配列を、全長にわたり経時的に決定することに初めて成功した。現在患者血清内に存在するウイルスの全長配列を比較解析し、パッケージングシグナル関連配列の探索を行っている。さらに本手法は、HCVの多種性が病態や薬剤耐性獲得にどのように寄与するかの理解に繋がると期待できる。
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