研究概要 |
B細胞、T細胞は、Hematopoietic Stem cell (HSC)より、Multipotent progenitor (MPP)、Lymphoid primed multipotent progenitor (LMPP)、Common lymphoid progenitor (CLP)の前駆細胞を経て分化する。昨年度までの研究により、転写抑制因子Bach1とBach2の二重欠損マウス(DDマウス)では骨髄のLMPP、CLPが減少している事が分かった。そのため、骨髄中のpro-Bから全ての段階のB細胞と、胸腺のEarly Thymic Progenitor (ETP)が減少していると考えられた。したがって、Bach因子はHSCからのリンパ球分化を制御している可能性がある。本年度は、第一に、DDマウスの血球分化の障害が、血球側の問題か、分化を支持する環境側の問題かを明らかにするため、骨髄移植実験を行った。致死量の放射線を照射したCD45.1 congenicマウスに、テスト細胞である野生型とDDのHSC100個と、競合細胞であるCD45.1、CD45.2ヘテロマウスの2×10^5個の骨髄有核細胞を尾静脈注射により移植した。移植16週後、末梢血中のB220陽性B細胞とCD4, CD8陽性T細胞の競合細胞に対する割合は、野生型のテスト細胞が51%、34%だったのに対し、DDマウスのテスト細胞では12%、1%と、著しく低かった。一方、CD11bとGr-1陽性のミエロイド細胞へ分化したテスト細胞の割合は、野生型とDDで同等だった。このことから、DDマウスでみられるリンパ球の分化障害は、血球側の問題であると考えられた。第二に、Bach因子による血球分化制御機構を調べるため、野生型と、DDマウスのHSC、MPP、LMPP、CLPを分取し、定量PCRによる遺伝子発現解析を行った。その結果、DDマウスのHSCではミエロイド分化に重要な転写因子であるPU.1とC/EBPαが、それぞれ野生型の1.2倍と2.8倍に上昇し、ミエロイド分化が亢進している可能性が示唆された。また、DDマウスのCLPではB細胞分化に必須の転写因子であるEBFとPax5の発現が野生型の半分以下に低下しており、異常な集団である可能性が示された。これらの結果から、Bach因子はHSCからのリンパ球分化を制御しており、正常なCLPの分化に重要であると考えられた。
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