本研究では、5d遷移金属を用いて新物質を合成することにより、5d電子系の物性を開拓することを目的としている。5d電子系はスピン軌道相互作用・電子相関・結晶場の複合物性が期待できる有望な舞台である。 1.新超伝導体BaIr2P2、BaRh2P2の発見 5d遷移金属リン化物に着目し物質合成を行った結果、2つの新超伝導体BaIr2P2、BaRh2P2を発見した。それぞれ超伝導転移温度(Tc)は2.1Kと1.0Kであり、BaIr2P2はThCr2Si2型構造を持つ5d遷移金属ニクタイドで初の超伝導質である。これまで反応性が低く物質のバリエーションが限られていたため、5d遷移金属は物性研究の対象として注目されてこなかった。しかし、これらの超伝導体の発見により、5d遷移金属が新規物性開拓の舞台として有望であることが示された。今後、5d遷移金属特有の強いスピン軌道相互作用が超伝導機構にどのようにかかわっているかなどに興味が持たれる。 2.新超伝導体SrIr2As2の発見と新物質EuIr2As2の合成に成功 リン化合物をもとにさらに物質合成を進めた結果、新超伝導体SrIr2As2と新物質EuIr2As2の合成に成功した。 SrIr2As2はリン系の化合物に比べて高いTc=2.9Kを持つ超伝導体である。一方でEuIr2As2はユーロピウムが磁気モーメントをもち反強磁性体となる。SrIr2As2の発見は、5d遷移金属特有の強いスピン軌道相互作用を有する系での超伝導という観点からだけではなく、近年発見された鉄系超伝導体の関連物質としても重要である。今回発見した新超伝導体は、代表的な鉄系超伝導体であるBaFe2As2と同じThCr2Si2型の結晶構造を持つ。同じ結晶構造を持ちながら、大きく転移温度の異なる超伝導を発現するSrIr2As2は鉄系超伝導体の特異性を検証するうえで重要な比較対象であると考えられる。
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