近年、ナノスケールの構造体に関する研究がマテリアルサイエンスの分野において注目を集めている。ナノ構造体の創出法の一つに、水素結合、配位結合、π-π相互作用、ファンデルワールス相互作用などの非共有結合性の分子間相互作用を用いて、複数の分子を秩序だって集合させるボトムアップ型の超分子化学的な手法が挙げられる。高次構造と機能性を有するナノ集積体は大きな比表面積、小さなサイズ、および規則正しく並んだ分子配列を有しているので、分子単体では示されないような新しい物性の発現や分子デバイスへの応用も期待される。本研究では長鎖アルコキシ基と各種官能基を導入したC_<2v>対称トリフェニレン誘導体を設計・合成し、「分子の構造と電子的性質が超分子構造体のモルフォロジーおよび物性にどのように反映されるか」という事柄について実験的な調査を行った。合成に成功したトリフェニレン誘導体の自己集積能について調べたところ、リボンやリング、チューブといった多様な形状を示すナノ構造体を形成することを明らかにした。また、理論計算や熱分析により、分子の構造や電子的性質が自己集積能に与える影響についての評価も合わせて行った。そして、有機π共役系化合物は通常、固体状態ではπ-π相互作用などの分子間相互作用によって蛍光が消光してしまうが、シアノ基を有するトリフェニレン誘導体がナノ構造体は溶液状態よりも強い発光挙動を示すことを明らかにした。電子スペクトルやX線回折による測定を行うことで固体での増強発光挙動が誘起されるメカニズムについて考察を行い、アルキル鎖同士の相互作用により振動失活が抑制されることが考えられた。
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