研究概要 |
優秀若手研究者海外派遣事業において平成22年5月20日~平成23年3月15日の期間,デンマーク・コペンハーゲン大学に滞在し研究を行った。この滞在研究の目的は,透過型電子顕微鏡(TEM)観察技術の習得であり、本研究のテーマにおいては、外洋性種の培養が特に困難であるため少数の細胞から確実にTEMデータを得られることが非常に重要となる。コペンハーゲン市内の池より得られた淡水産種Amphidinium amphidiniodesの培養に成功し,TEM観察技術の習得を目指した。また,本種は典型的な渦鞭毛藻類とは異なる青緑色の葉緑体を持つことで注目される種であり,その葉緑体の特性・動態を調べた。これまで,本種の葉緑体はパーマネントなものとして考えられてきたが,クリプト藻を捕食し一時的にその葉緑体を維持し利用するというクレプトクロロプラストであることが明らかとなり,約24日間維持された。また,驚くほど巧妙な捕食方法を用いてクリプト藻を丸呑みすることが明らかとなり,先行研究結果ではクリプト藻由来の葉緑体のみを持つことから,葉緑体以外の構造物をどうにかして処理していることになる。光学・蛍光顕微鏡・TEM観察によると,捕食されたクリプト藻は食胞膜に包まれず細胞内に取り込まれ,葉緑体以外の構造物が膜に包まれ消化されていた。その葉緑体は決して消化の対象とはされることなく,働かなくなった葉緑体の老廃物は細胞外に排出されていた。本種は葉緑体獲得の初期段階を見られる生物であることが明らかとなり,本種のその機構を解明することは細胞内共生による葉緑体獲得の理解につながるものとなる。これらを明らかとする課程で,捕食中・捕食後からの経時変化をTEMで観察した。その際,滞在先研究室の持つ技術を習得し,さらに改良することで1細胞からTEM観察試料を比較的容易に作成することに成功した。この技術は,多くの難培養性の生物に適用可能であり非常に有用なものである言える。
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