細胞膜上には糖脂質やコレステロールに富んだ「ラフト」と呼ばれる領域があり、HIV-1感染において重要であると考えられている。これまでの当研究室の実験結果から(1)ラフト結合物質(2)ラフト特異的に存在するタンパク質が新規HIV-1治療薬の標的となることが示された。本年度は1年目とは異なるラフト関連物質がHIV-1ベクター感染を抑制するかどうか、またそのメカニズムを解析した。 (1)コレステロール類似体のHIV-1ベクター感染に及ぼす影響 本実験で用いたコレステロール類似体であるシトステロール、エルゴステロール等植物ステロールはコレステロール吸収阻害作用を持つ物質である。これらが細胞膜上のラフト構造に何らかの影響を与えHIV-1ベクター感染を抑制するのではないかと考え、植物ステロール処理した細胞にHIV-1ベクターを感染させた。しかし顕著な抑制効果は認められなかった。 (2)ラフト特異的に存在るタンパク質(テザリン)のHIV-1ベクターcell-cell transmissionにおける影響の検証HIV-1の感染様式はウイルス粒子によるcell-free transmissionとウイルス産生細胞と標的細胞の直接的な接触によるcell-cell transmissionの2つが知られているが、生体内では主に後者が主要な感染様式だと考えられている。ラフト特異的に存在するテザリンはcell-free transmissionを抑制することが知られているがcell-cell transmissionに及ぼす影響については様々な報告があり一貫していない。de novoの感染のみを検出する新規のHIV-1ベクターassay系を用いてテザリンのcell-cell transmissionに及ぼす影響を検証した結果、cell-freeと同様にcell-cell transmissionも抑制することがわかった。 以上のことからラフト特異的に在するテザリンの抑制メカニズムの解明は新規HIV治療方法の開発につながるであろう。
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