申請者は縮環ポルフィリン二量体をコアとするディスコチックカラムナー液晶の開発と有機半導体への応用を行ってきたが、今までに開発した液晶材料はレクタンギュラー相かオルソロンビック相のみを発現していた。大面積デバイスへの応用を目指すにあたり、マクロスコピックなスケールでカラムが垂直配向するカラムナー液晶の開発は魅力的であるが、そのような挙動は、ヘキサゴナル相でしか観測されていないという過去の知見がある。そこで申請者は、縮環ポルフィリンを用いて自発的な垂直配向能を付与するには、ヘキサゴナルカラムナー相を発現させる分子設計を施すことが鍵である、と考えた。そこで、ポルフィリンコア周辺に自由度があり、分子全体として対称性が高い構造であるメゾアルキル置換縮環ポルフィリン二量体を新規に設計したところ、狙い通りヘキサゴナルカラムナー相を形成した。さらに意外なことに、中心金属の種類がカラムの自発的な垂直配向能の有無を決定していることを見出した。最も垂直配向能の高いニッケル錯体では、固体相においてもその垂直配向状態が保たれ、異方的な電荷輸送特性を示すことが明らかとなった。一方、亜鉛錯体においてはそのような配向挙動は全く観察されず、ランダムにカラムが配向した状態をとることが明らかと成った。ポルフィリン誘導体が中心金属の種類によりπスタックの強さを変えることは知られているが、このような微少部位の変化がマクロスコピックなスケールの垂直配向を制御するにまで及ぶという現象は過去に例がなく、金属錯体液晶のさらなる可能性を示す重要な発見であるといえる。
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