分子モーターの階層的なダイナミクスを全原子・粗視化シミュレーションを駆使して解析して、その動作機構を明らかにするという研究目的の中で、本年度は主にアクトミオシンの弱結合/強結合状態をそれぞれ粗視化/全原子シミュレーションで解析した。まず、弱結合状態の粗視化シミュレーションについては、分子間相互作用としてデバイ-ヒュッケル型静電相互作用を用いたモデルで、タンパク濃度を調節するため複数の大きさの球に閉じ込めて長時間分子動力学シミュレーションを行うことで、解離定数を計算した。その解離定数の塩濃度/温度依存性を実験と比較したところ、定性的には良い一致が見られた。特に、温度が上がるにつれて結合標準自由エネルギーが下がるという現象に関して、従来は、疎水性相互作用等のエントロピー駆動によるものという解釈がなされてきたが、水の誘電率の温度依存性とタンパク濃度の標準状態の取り方を考慮すると、今回用いた静電相互作用モデルで実験結果が説明できることを示した。この結果は、今までエントロピー駆動型結合とされてきた他の系に関しても静電相互作用の寄与を示唆するもので、タンパク質間結合の本質の解明に貢献しうるものであると考える。次に、強結合状態に関しては、アクチン3量体+ミオシンの全1905残基という大きな系で、溶媒を陰に考慮したモデルで全原子シミュレーションを行っている。その結果、ミオシンのクレフトの開閉と結合エネルギーとの間に相関が見られ、結合親和性の調節機構の一端を解明しつつある。また、F_1-ATPaseの階層的なダイナミクスを網羅的なX線構造の比較から解析した結果をまとめて、論文として発表した。
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