分子モーターの階層的なダイナミクスを全原子・粗視化シミュレーションを駆使して解析して、その動作機構を明らかにするという研究目的の中で、最終年度である本年度は、アクトミオシンの弱結合状態の粗視化シミュレーションのまとめと強結合状態の全原子シミュレーション、F_1-ATPaseの回転メカニズムに関する全原子シミュレーションを行った。 まず、アクトミオシンに関しては、デバイ-ヒュッケル型静電相互作用を用いた粗視化モデルで、弱結合状態のシミュレーションを行って、解離定数の塩濃度/温度依存性や弱結合状態の複合体構造を調べた結果を論文にまとめて投稿した。また、強結合状態に関しては、アクチン3量体+ミオシンの系で、溶媒を陰に考慮したモデルで全原子シミュレーションを引き続き行った。 次に、F_1-ATPaseに関しては、ATP加水分解後のリン酸解離と共役した回転子γサブユニットの40度回転のステップに注目をして、γサブユニットの回転が引き起こすαβサブユニットの構造変化と、リン酸解離の回転角依存性のメカニズムを全原子シミュレーションにより解析した。具体的には、γサブユニットに拘束をかけて回転させてやり、各回転角度で緩和シミュレーションを行って、γサブユニットの回転が引き起こすαβサブユニットの構造変化を観察した。その結果、αβ界面の構造変化を見いだした。また、リン酸解離の回転角依存性を定量的に調べるため、熱力学積分法を用いた結合自由エネルギー計算を行った。この研究は、アメリカ国立衛生研究所のHummer博士のもとに約10ヶ月間研究留学して、ディスカッションを重ねた結果、可能になった。
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