触覚をテーマに掲げた今年度の研究成果は、1、前年に引き続くベンヤミンにおける触覚の重要性についての考察、2、過去数年の研究に引き続く、イーディス・ウォートンにおける触覚性についての研究、および3、後期メルロ=ポンティにおける触覚の問題をプルーストの時間・記憶論につなげる試みという三点において進展があった。従来の人文研究の枠組みではいささか散漫な研究対象のように見えるかもしれないが、これらの研究はいずれ「接触とモダニティ」というテーマのもとに横断的に統合される研究対象である。 1、ベンヤミンについては、すでに2009年5月までに論文の一稿を完成したあと、触覚と空間的な想像力(特に求心的な力のモメントとモダニズムの関係)、触覚とアナクロニスム的な時間感覚、さらには触覚とミメーシスの問題など、触覚と結びついたさまざまな問題を中心に6月から8月、10月から11月にかけて改稿を続けた。この成果はまだ未発表である。2、イーディス・ウォートンについては、これまで検討されることの少なかった『木の実』におけるモダニズム的な意味について考察した論考をまとめた。また、平成19年度から論文に仕上げてきた、彼女の主要作品である『歓楽の家』における感染の想像力についての論は12月に集中的に取り組んで完成し、これは今年の4月末日までに投稿予定である。3、現在進行中テーマで、メルロ=ポンティの身体論とプルーストにおける身体的な時間性や記憶の場としての身体の問題を接続する試みである。接触によって喚起される空間性・時間性が主客二分論をどのように解体し、それがモダンという時間の歴史性といかに結びついているかを考察している。
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