研究課題
本研究の目的は、遷移金属化合物の示す様々な新奇物性の発現機構を解明し、軌道やスピンの自由度を生かした遷移金属化合物の新材料・新機能開発に貢献することである。本年度は光学測定、X線分光測定を用いて主にMnV_2O_4とBaV_<10>O_<15>の2種類のV酸化物の軌道整列に関する研究を行った。MnV_2O_4はT_N=58Kで軌道整列を伴う構造相転移を起こす物質である。この転移は立方晶から1軸が縮む正方晶への転移であるため、光学スペクトルの詳細な解析が困難であった。試料を銅基板、ガラス基板上に貼り付け、基板応力によって、結晶軸を揃えることを試みた。その結果、銅基板上ではac面と考えられるスペクトル、ガラス基板上ではab面と考えられるスペクトルを得ることに成功した。このドメイン制御された面についてフェムト秒ポンププローブ反射率測定を用いた光誘起相転移現象のダイナミクスの測定も行った。その結果、低温相にフェムト秒レーザーを照射すると、数ps以内に高温相が出現することがわかった。またその反射率の時間発展において、異なった周期をもつ3種類のコヒーレント振動が観察された。これらの振動構造はそれぞれshockwaveを起源とするもの、面に垂直方向、水平方向の光誘起によって出現したドメイン境界の移動を起源とするものと想定される。一方、BaV_<10>O_<15>はT_s=123Kで構造相転移をすると共に金属状態から絶縁体状態へ転移する物質である。この低温相において、V三量体を含む複雑な軌道整列が起きていると考えられている。このBaV_<10>O_<15>に関して共鳴X線散乱を用いて、V三量体の直接観察を試みた。その結果、BaV_<10>O_<15>の低温相において軌道整列を起源とする共鳴X線を観察するのに成功した。エネルギースペクトルのQ依存性をモデル計算と比較することにより、この共鳴X線がV三量体のモデルと合致することを確認した。
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