研究概要 |
ベンゾトリアゾール(Hbt)は配位可能な窒素原子を二つ有する両座配位子である.過去に酸化還元誘起結合異性を示すルテニウム錯体が合成されていて,Ru^<II>の状態ではHbtが2位の窒素(N(2))で中心金属イオンに配位しているが,中心金属イオンを酸化してRu^<III>の状態にするとHbtが3位の窒素(N(3))で配位することが知られている.そこで,Hbtを両座配位子とし,補助配位子として光受容性配位子である2,2':6',2''-terpyridine (tpy)や2,2'-bipyridine誘導体を有するルテニウム錯体[Ru^<II>(Hbt) L (tpy)](CF_3SO_3)_2(Lは4,4'位をH,Me,OMe,tBu,Phで置換された2,2'-bipyridine誘導体)を合成し,溶液内酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリー測定により検討を行った.しかしながら酸化還元誘起結合異性に由来するようなピークを観測することはできず酸化還元誘起結合異性挙動が見られなかった.そこで,代替化合物として過去に我々が報告している酸化還元誘起結合異性を示す錯体[Ru(NH_3)_5(mi-S)]^<n+>(mi=2-methylisothiazol-3(2H)-One ; n=3 or 2),光増感剤ルテニウム錯体[Ru^<II>(bpy)_3]Cl_2,そしてmethylviologen (MV)を用い,三元系分子間光電子移動反応による酸化還元結合異性を誘起するシステムの構築を目指した.その過程でRu^<II>の状態miが硫黄で,Ru^<III>では酸素で配位した錯体をそれぞれ合成単離し,単結晶X線構造解析によって構造を決定した。このように酸化還元結合異性体の単離例は極めて少なく,これは予期せぬ大きな成果であった.
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