今年度は量子色力学(QCD)の非摂動的ダイナミクスについて主に行列模型と量子渦の観点から研究を行い、それを論文として発表した。 1.行列模型に基づくQCDの研究に関しては、"Random matrix theory of unquenched two-colour QCD with nonzero chemical potential"という論文を発表した。これは前年度に発表した論文"Chiral random matrix theory for two-color QCD at high density"において議論した、QCDの高クォーク密度における振る舞いを行列模型によって記述する試みをさらに展開したものであり、ディラック固有値の統計的分布がクーパー対の生成による対称性の自発的破れにどのように関係しているかを数学的に完全に明らかにした。また、QCDの第一原理計算を困難にしている負符号問題について、このモデルの枠内で検討し、高密度におけるクォーク行列式の符号のゆらぎを計算した。 2.QCDは高クォーク密度でColor-flavor-locked phaseと呼ばれる相を実現することが予想されている。この相ではカラー対称性とクォーク数保存が同時に自発的に破れる結果、カラー磁束を持ったユニークな超流動渦(non-Abelian vortex)が出現すると考えられている。この渦について"Topolegical Interactions of Non-Abelian Vortices with Quasi-Particles in High Density QCD"という論文を発表した。これは「双対変換」と呼ばれる場の理論的手法を用いることによってゲージ場が媒介する渦間の相互作用を導いたものである。この結果は中性子星内部において超流動渦の多体系がどのように振る舞うかを明らかにする上で重要と考えられる。 なお2010年10月に3週間ドイツに滞在し、レーゲンスブルグ大学のQCD研究者らと意見の交換を行った。また大阪大学、京都大学、KEK等においてセミナーを行い、研究結果の解説と意見交換を行った。
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