研究概要 |
本研究は,身体から得られる複数の感覚情報(視覚,触覚,自己受容感覚など)と身体の内的表象(身体イメージ・身体図式)の間にどのような関連があり,双方がそれぞれ知覚場面にどのような影響を及ぼし合うのか明らかにすることを目的としている.昨年度は,自分の身体部位(手)の大きさはどの程度正確にイメージできるか,また手のポーズや位置,部位によってイメージの正確性に違いがみられるかを検討した.今年度は,自分の身体部位としての"手"と,カードなどの"物"の大きさイメージの違いについて検討することにした.実験参加者の課題は,自分の手の横幅,馴染みのある物(ICカード,名刺),馴染みのない物(角丸紙)をイメージしながら,ディスプレイ面上の二本の水平線間の幅を各物体の大きさに合うよう調整することであった.また,実験参加者からディスプレイまでの距離は,手前から奥にランダムに6段階で変化させた.各条件で実物の大きさとイメージされた大きさのずれを比較した結果,特に手のイメージは距離の効果を強く受け,ディスプレイ面が自分の腕の長さより遠くに配置されると過小判断になることが分かった.近年,身体周辺空間(peripersonal space)とそれ以外の空間(extrapersonal space)では空間情報を処理する神経システムが異なることが報告されており(e.g., Committeri et al., 2007),今回の結果は,同様のシステムが身体の大きさをイメージする際にも影響する可能性を示唆する.この成果は,日本基礎心理学会第29回大会,および11^<th> Annual meeting of International Multisensory Research Forumでポスター発表し,現在国内誌へ投稿準備中である. また,手における2点の触覚弁別が,身体の可動域や内的表象に基づいて,課題とは無関連に呈示される視覚刺激(妨害光)から干渉を受けることを明らかにし,その成果が国際誌に掲載された.
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