研究概要 |
昨年度は,自分の手,馴染みのある物(ICカード,名刺),馴染みのない物(角丸紙)をイメージしながら,ディスプレイ面上の二本の水平線間の幅を各物体の大きさに調整させることで,物と手の大きさイメージの正確性の違いを検討した.実験参加者からディスプレイまでの距離についても,手前から奥にランダムに6段階で変化させながら実験を実施したところ,特に手のイメージは距離の影響を強く受け,ディスプレイ面が自分の腕の長さより遠くに配置されると有意に過小判断されることが明らかとなった.これらの結果は,身体の大きさ概念が,長期的な身体経験によって調整されうるものであることを示唆する.今年度は,この結果に新たにデータを加え,これまで得られた手の大きさイメージの正確性に関する知研究成果とあわせて,1つの雑誌論文にまとめた. また今年度は,共同研究として身体各部位および身体背面部における触刺激の評価に関する調査・実験研究を行った.まず,質問紙による調査を行った所,関東圏内の大学に通う女子大生の約30%が1回以上の痴漢被害を経験しており,その被害部位の多くが身体背面部や下半身であることが明らかとなった.そこで,目隠しをした上で,身体背面部(背中・臀部)および手のひらに,手(手のひら・手の甲)や物(鞄・傘)を呈示し,触覚情報のみで正しく対象を判断できるかを検討した.その結果,特に身体背面部である臀部や背中では,物が呈示されているにも関わらず,約30%が手だと誤って判断されることが明らかとなった.この結果は,触覚解像度の低い身体背面部においては,触覚情報のみで対象を正確に識別することが難しいことを示唆しており,痴漢冤罪が生じる原因の一端を示すと考えられる.
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