研究概要 |
沈み込み帯付近でのマントルの流れを計算するための道具として、新たに3次元球殻形状での沈み込み帯モデルを開発した。これはHonda(2008)で提唱されたデカルト座標での沈み込み帯モデルを円筒座標、球座標などのより一般的な形状で使用できるよう拡張したものである。このモデルの利点は主に以下の2点である。1つ目は、我々は表面のプレート速度、海溝の形状、地表付近でのスラブの沈み込み角度をあらかじめ与えることができるため、ある特定の地域に合わせたセッティングで計算を行いやすいという点である。2つ目は、このモデルは地球の丸みを考慮しているために、広い沈み込み帯やコア・マントル境界等それが大きな影響を持ちうる場所でのマントルの流れをより正確に与えてくれるという点である。 このモデルの適用例として2つのセッティングで計算を行った。最初にカムチャッカ地方付近で予想される、スラブの横を回り込むような流れを想定したセッティングで計算を行った。その結果を、デカルト座標で同様のセッティングで計算したもの(Honda, 2009)と比較したところ、少なくともこの計算で用いたパラメータの範囲内では地球の丸みがマントルの流れに及ぼす影響は大きくないということが分かった。次により複雑な海溝形状を考慮した例として、東北地方付近のプレートジャンクション帯(2つのプレートが接している部分)を想定したセッティングを用いて計算を行った。その結果、マントルウェッジ(沈み込んだスラブの陸側のマントル)で海溝に垂直な方向へのマントルの流れが生じることが分かった。 現在は、新たに開発した沈み込み帯モデルを用いて得られた計算結果(マントルの流れ)を観測された地震波異方性と比較するための手段を検討中である。その手段として有限歪みの計算を考えている。
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