研究概要 |
拡散クリープ、転位クリープというマントルの主要な変形メカニズムを考慮に入れた数値計算を東北地方の沈み込み帯に対して行い、得られたマントルの流れから地震波速度異方性を推定した。その結果、マントルウェッジ内で小規模な流れが生じているかどうかを議論するためには地震波速度異方性の鉛直成分に注目することが有効であることを示した。その結果をまとめたものを国際誌(Geochemistry,Geophysics,Geosystems)に投稿、受理された。 東北から北海道にかけてのプレートジャンクションでの数値計算を三次元部分球殻形状で行った。海溝の形状、浅部でのプレートの沈み込み角度、そしてプレート速度は東北から北海道にかけての観測となるべく合うように与えた。球座標系でのプレートの沈み込みはMorishige et al.(2010)の方法で与え、数値計算上の特異点の影響の抑制にはMorishige and Honda(2011)の方法を用いた。計算の結果、大きく分けて以下の2点の成果が得られた。1つ目はプレートジャンクションでの沈み込みに伴う3次元的なマントルウェッジでの流れの存在を確認したことである。この流れから推定した地震波速度異方性は観測結果(Nakajima et al.,2006)と整合的であり、このことは数値計算で得られたようなマントルの流れが実際に東北から北海道にかけてのマントルウェッジで起きていることを示唆する。2つ目は東北から北海道にかけての沈み込んだプレートの形状を定性的に説明できたことである。これはスラブにかかる2種類のトルク(マントルの流れによって生じる圧力によるトルクとスラブの自重によるトルク)に注目すれば説明可能である。また東北と北海道の下でのプレートの沈み込み角度の差から、東北と北海道下のスラブの挙動の違い(北海道下ではスラブは下部マントルまで沈み込んでいる一方、東北の下ではスラブが遷移層で滞留している)まで説明できる可能性がある。
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