生物が生体の内外に鉱物を主成分とする硬組織を形成する現象(バイオミネラリゼーション)は甲殻類の外骨格、軟体動物の貝殻、人の歯・骨など幅広い生物に見られる普遍現象である。バイオミネラリゼーションは単なる無機化学反応ではなく、そこに含まれる少量の有機基質が鉱物結晶の形成、成長、多形、形態等の制御に関わっていると考えられている。本研究の材料であるアコヤ貝貝殻は内側に炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶から成る真珠層、外側に炭酸カルシウムのカルサイト結晶から成る稜柱層と、異なる2つの結晶多形から構成されているのが特徴である。このように同一の場に最安定であるカルサイト結晶と準安定であるアラゴナイト結晶を作り出す機構に、有機基質が関与していると考えられるが、未だそのメカニズムは不明である。そこで貝殻から有機基質を単離・精製し、構造機能解析を行うことで貝殻形成のメカニズムを明らかにすることを目的とした。 本年度においてはPifの組み換え体発現系を大腸菌、酵母、麹菌、昆虫培養細胞等の宿主を用いて構築を行った。大腸菌においては全く発現が認められなかったが、酵母、麹菌、昆虫培養細胞においてはPifの生産が認められた。しかし、酵母や麹菌を用いた系においては発現産物に大量の糖鎖が付加してしまい、発現産物を精製することが困難であった。一方、昆虫培養細胞を用いた系においては天然物のPifとSDS-PAGE上で同位置に存在するバンドとして確認され、天然物に近い発現産物が合成されていると考えられた。しかし、発現量が非常に少ないため、大量に発現産物を得るために発現系を改良する必要があると思われる。
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