研究課題
生物が生体の内外に鉱物を主成分とする硬組織を形成する現象(バイオミネラリゼーション)は甲殻類の外骨格、軟体動物の貝殻、人の歯・骨など幅広い生物に見られる普遍現象である。バイオミネラリゼーションは単なる無機化学反応ではなく、そこに含まれる少量の有機基質が鉱物結晶の形成、成長、多形、形態等の制御に関わっていると考えられている。本研究の材料であるアコヤ貝貝殻は内側に炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶から成る真珠層、外側に炭酸カルシウムのカルサイト結晶から成る稜柱層と、異なる2つの結晶多形から構成されているのが特徴である。このように同一の場に最安定であるカルサイト結晶と準安定であるアラゴナイト結晶を作り出す機構に、有機基質が関与していると考えられるが、未だそのメカニズムは不明である。そこで貝殻から有機基質を単離・精製し、構造機能解析を行うことで貝殻形成のメカニズムを明らかにすることを目的とした。アコヤガイの真珠層形成において重要な分子であるPifのホモログがカサガイのゲノムデータベースより同定された。カサガイは真珠層ではなくアラゴナイトの交差板構造を有している。交差板構造と真珠層形成の共通メカニズムを明らかにするために、交差板構造のアラゴナイトの解析を行った。IRスペクトルおよびXRDスペクトルの解析の結果から、交差板構造は結晶子の大きさが小さく、非常に整った格子構造を持つアラゴナイトであることが判明した。またcryo-SEMを用いて交差板構造の成長先端を観察したところ、粒状の炭酸カルシウムが交差板に取り込まれている様子が観察された。また交差板内の有機基質はアモルファスから直接アラゴナイト結晶を誘導する能力があることが示された。
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