量子ホール効果は、1980年代から二度にわたりノーベル賞を受賞した物性物理の中心的テーマの一つであり、最近では抵抗の標準となるほど日常的にも重要であるが、量子ホール効果を示す半導体に強いレーザー光を当てると、「光学的量子ホール効果」と呼ぶべき新現象が発生することを理論的に予言した。この効果は、近年発展が著しいテラヘルツ光領域におけるレーザー光学技術により観測可能であることが見積もられる。また、ポスト・シリコン材料として現在脚光を浴びているグラフェンにおいても、「偏光(ファラデー回転)で見る微細構造定数」という新奇な光学的量子ホール効果を予言した。 量子ホール系の特徴はdcホール伝導度がトポロジカルに量子化されることであるが、ac領域に行ったときにホール伝導度がどう振舞うかには興味がもたれる。 2DEGおよびグラフェン量子ホール系の光学ホール伝導度を不純物存在下で数値的に求め、ホール伝導度におけるプラトー構造が、量子化値はもたないもののac領域でもアンダーソン局在によってrobustに残ることを見出した。 この効果は実験的にも池辺らによって、THz光によるファラデイ回転の測定によって観測された。 アンダーソン局在の性質はスケーリング解析をすることが必須となるが、ac応答に対してはこれは動的スケーリング問題となるので、光学ホール伝導度の動的スケーリングによる解析を理論的に行った。 2DEGの最低ランダウレベル(LL)及びグラフェンn=0LLに対して、プラトー転移の幅のスケーリング解析を行った。 その結果、どちらの系でも動的スケーリングがよく成り立ち、動的スケーリング指数z~2が得られた。 このことから、周波数を上げていくと、系のサイズLがWを支配する静的な領域から、周波数で決まる有効的な長さが系を支配する動的領域へクロスオーバーすることを見いだした。この結果は実験的に観測されたTHzホール効果の物理に対して局在という観点からの理解を可能にするものである。
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