本研究は、非ドープ半導体量子細線・量子井戸中の光励起キャリアのエネルギー分布を、光学スペクトル測定に基づき解明することを目指している。本年度は、(1)時間分解発光測定を用いたキャリア分布の調査と(2)PLEスペクトル形状の変化と共鳴レイリー散乱の関係に関する系統的調査を行った。 (1)定常条件下において励起方法の違い(励起子束縛状態に対して共鳴励起・非共鳴励起)によって非ドープ量子井戸内に異なるキャリアの分布が形成される、という前年度の結果をふまえ、本年度は時間分解発光計測によってキャリア分布状態の違いの特徴を捉えることを試みた。MCP内蔵型光電子増倍管を検出器とする時間分解発光計測光学系の立ち上げを行い、共鳴および非共鳴のピコ秒パルス励起条件下で計測を行った。測定の結果、共鳴励起の場合、試料発光の立ち上がり・減衰がともに急速であるのに対し、非共鳴励起の場合、これらが非常に遅いことが明らかになった。観測されたこの時間分解計測結果を、CW条件下のキャリア分布の研究結果と統合的に説明できるモデルの検討も行った。 (2)前年度の測定結果から予想された、共鳴レイリー散乱とPLEスペクトル形状の励起子ピークの変形の間の対応関係を確認するため、系統的測定を実施した。PLEスペクトルにおける励起子ピーク形状の変化分と、共鳴レイリー散乱光強度の増加は、同一の温度領域で生じること、および、それぞれの変化量が同程度の大きさであることを確認した。また、PLEスペクトルの温度差分スペクトルの形状が共鳴レイリー散乱スペクトルに一致することも確認した。これらの結果から、試料に照射された励起光のうち、共鳴レイリー散乱過程によって散乱される割合が低温ほど増加し、PL過程によって緩和する割合が減少することが原因となって、PLEスペクトル形状が変化することが裏付けられた。この成果ついては国内会議で口頭発表を行った。
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