研究概要 |
強誘電体やリラクサーにおいては系がもつ本質的な不均一性や揺らぎが巨大応答をもたらすことが知られている。本研究はこのような不均一性を人工的に創製し、巨大応答の起因を明らかにすることを目的としているものである。本年度は4月1日から共同研究を行っているイギリスのOxford大学に半年間の間滞在し、研究を行った。圧電材料として広く利用されているPb(Zr,Ti)O_3(以下PZT)を中心に研究を行った。PZTにおいてはZr,Ti組成比に応じて、結晶構造が異なり、Ti濃度が48%近傍において2相の境界が温度に対してほぼ垂直になるようなmorphotropic phase boundary(MPB)が存在する。この付近では誘電,電気機械定数が大きくなることから応用,基礎の側面からも多くの研究がなされてきた。これまでにMPB近傍で対称性が著しく低下することにより、外部刺激に対して容易に応答できるためだと解釈されている。しかしながら、その構造はいまだに明確に定まっていないのが現状である。また、単結晶や粉末試料の作成方法によっても構造が異なるとの報告もされている。MPB近傍においてなぜ物質定数が大きくなるのかを解明し、さらにそれを他の物質に応用するためにはまず,構造を明確にする必要があるといえる。そこで固相反応とゾルゲル法の2つの手段を用いてPZT試料を1%刻みにそれぞれ25濃度作成し、ISISにある高分解能粉末回折装置を用いてTime of Flight法で実験を行った。構造解析をおこなった結果、われわれはこれまで単一の高対称相だと考えられていた領域が、低対称相との混晶であることを明らかにした。さらに、この低対称相の体積比はMPBに近づくに伴い系統的に増加することを明らかとした。この結果は大きな物性を解釈する上での従来の考え方を根本的に見直す必要があることを示唆している。この結果について滞在中にPhysical Review Bに発表をし、さらに研究会や学会において発表を行っている。
|