従来の立憲主義研究は、主に法学的観点から論じられ、市場との関係において、経済的行動に対する主に個人権の擁護のための外的な法的規制の議論に留まり、個人がどのような動機でその規制を受容するかなどが論じられていない。現実の個人に根ざした立憲主義を論じるためには、政治学・法学・経済学を統合する試みの一環として、立憲主義を政治経済学的に考察することが必要である。申請者の研究目的は、経済的決定における規範意識が利己心を動機とした自己規制であることを示し、その規範意識と個々人の人格の尊重というりベラルな倫理観が、立憲主義社会において相補関係にあると論証することである。 このような目的のために、申請者は本年度、「ベルクソンとスミスの道徳論における相違について」というタイトルで学会発表をし、スミスによって論じられた、経済的決定における規範意識は個々人の人格の尊重を量的に評価するため、多数の個人の生命が少数の個人の生命よりも価値があると考えるが、ベルクソンは個々人の生命はその数にかかわらず同等な価値があると考えることを論じた。次に、論文「アンリ・ベルクソンにおける自由な行為の政治哲学的意義について」において、上述したベルクソンの倫理観が経済的合理性で還元されず、かつ立憲主義社会の連帯性を支えることを経済的合理性の数理的定式化を分析することをつうじて明らかにした。これらの研究を通じて、経済的合理性に基づく規範意識の限界を示し、それを補う倫理観の特徴を明らかにすることができた。
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