微分干渉熱レンズ顕微鏡(DIC-TLM)を用いて、数100nmスケールのナノチャネル内の非蛍光性分子の定量を実現した。近年、マイクロ・ナノ空間を利用した化学プロセスや単一細胞分析が発展している。微小空間では、単一分子レベルの高感度な分析が求められ、大多数の分子は蛍光を持たないために非蛍光性分子の分析も求められる。そこで当研究室では、光吸収と熱緩和に基づいた熱レンズ顕微鏡(TLM)を開発し、非蛍光性分子の高感度検出を実現してきたが、TLMは1μm以下の空間では測定ができなかった。そこで、新しく開発したより高感度なDIC-TLMをナノチャネルの計測に応用した。まず、ナノチャネルを石英基板上に電子線リソグラフィーとプラズマエッチングを用いて作製した。次に、空気圧による圧力駆動法を用いてナノチャネル内に色素溶液を導入し、DIC-TLMでその濃度を定量した。その結果、幅21μm、深さ500nmのナノチャネルにおいて、0.25fL中の390分子に相当する濃度を検出することに成功した。更に、幅790nm、深さ500nmのナノチャネルでも濃度定量に成功した。また、サイズの小さいチャネル中ではDIC-TLMの感度が著しく低下することを発見し、この原因が温度上昇に伴う石英の屈折率変化であることが示唆された。本研究は、ナノチャネル中で初めて非蛍光性分子の測定を可能にしたことから、近年急速に発展しつつあるナノ流体化学の分野に強力な分析ツールを提供することができる。特に、本年度以降に実施するナノ空間を用いたELISA法の検出器として応用していく。また、紫外光を用いることで、蛍光標識を用いることなくタンパク質の単一分子計測を実現するものと期待される。
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