複数の視覚標的が連続して出現すると後続標的に気づかない「見落とし」現象は、実験環境では頑健に観察されるが、現実場面では生じにくいことが知られている。申請者の研究課題は、RSVP課題と視覚探索課題を用いて、現実場面で見落としが回避されるメカニズムを実験的に検討することである。本年度は、風景写真などの自然画像を用いた視覚探索課題を用いて、現実場面における標的検出の処理過程を検討した。これまでの研究より、人間は自然画像が提示されてからわずか50ミリ秒以内に、画像にどのような風景が映っているのかを判断できることが知られている。このことから、人工的な無意味画像と異なり、自然画像への処理は素早く成立するため、標的が容易に検出できると考えられてきた。また、風景処理には低空間周波数成分、物体処理には高空間周波数成分が重要であることが示唆されている。これらの研究から、様々な空間周波数成分の情報を利用して、自然画像における標的の検出がなされていることを示唆されている。そこで、この仮説を検討するため、低空間周波数成分あるいは高空間周波数成分のみの条件と、両者を重ね合わせたハイブリッド条件で、標的の検出成績を比較した。その結果、刺激が100ミリ秒間呈示された場合、低空間周波数条件と高空間周波数条件の結果から予測される以上に、ハイブリッド条件は標的を検出しやすいことが分かった。この結果から、自然画像における標的検出において、人間の視覚系は100ミリ秒程度の時間で低空間周波数情報と高空間周波数情報を統合していることが明らかとなった。
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