研究課題/領域番号 |
09J08714
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高吉 慎太郎 東京大学, 物性研究所, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 低次元量子系 / ボソン化 / スピン鎖 |
研究概要 |
次近接相互作用のあるダイマー化ハイゼンベルグスピン鎖は、現実の1次元磁性体を記述するために重要な模型である。この模型はダイマー度を変化させたとき、相転移が起こるが、転移点付近ではサイン-ゴルドン模型にマージナル項を加えた有効場理論として記述することができる。この系の基本的な励起粒子は、soliton、anti-solitonおよびそれらの束縛状態であるbreatherからなり、最低準位は三重項を形成する。またサイン-ゴルドン理論から二番目に軽いbreatherの質量の三重項に対する比は√3になると予言される。我々はinfinite time-evolving block decimation法を用いて、各励起粒子に対応する演算子の2点相関関数を計算し、求まった相関長から粒子質量を見積もった。その結果、質量比はダイマー度にはあまり依存しないが、次近接相互作用の大きさに強く依存することがわかった。質量比が√3になるのは、次近接項がマージナル項を消すように入っているときであり、そこから外れると質量比はマージナル項による補正を受ける。我々はS=1/2と1の両方の場合について、相図と質量比の振る舞いが同じ場の理論によって統一的に説明できることを示した。またform factorを用いた摂動論と繰り込みの議論を合わせることにより、質量比をダイマー度と次近接項の関数として表す式を導き、それが数値計算の結果と整合的になることも明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当該研究に関して1件の論文発表があった。また投稿中のものが1編と準備中のものが1編あり、計画していた研究の成果が出つつあると判断できる。場の理論を中心とした解析計算と対角化やinfinite time-evolving block decimationなど数値的な手法を組み合わせて使用するテクニックが非常に有効に活用できており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今までは1次元量子スピン系における基底状態の相分類や励起構造などスタティックな物理に関する研究を進めてきた。今後はクエンチ後の緩和や外場を変化させた場合の系の発展など、量子スピン系のダイナミクスの問題に解析・数値計算の両面から取り組んで生きたい。解析計算は今までに利用していた非線形シグマ模型やサイン・ゴルドン模型などの場の理論の計算が主になると考えられる。数値的にはinfinite time-evolving block decimationの手法を用いた時間発展の計算を行う予定である。特にスピン1のハイゼンベルグ鎖で現れるHaldane相はトポロジカルな相であり、系のトポロジーがダイナミクスにどのような影響を及ぼすかを調べることは非常に重要である
|