研究課題
本年度はカイコの性フェロモン応答性におけるBmacj6の分子機能を解析した。その結果以下の成果が得られた。(1)幼虫が軟体形質を示すカイコの伴性突然変異spliでは、ショウジョウバエの嗅覚変異体の原因遺伝子であるacj6のカイコホモログの構造が破壊されていることを論文として発表した。(2)正常なカイコはボンビコールを性フェロモンとして認識するが、その酸化物であるボンビカールでは交尾行動は誘発されない。風洞実験の結果、acj6変異体はボンビコールに対する応答性が低下していること、ボンビカールによって交尾行動が誘発されることが判明した。(3)定量リアルタイムRT-PCR解析の結果、acj6変異体では、ボンビコール受容体(Or1)の発現量が正常個体の約1/1000に低下しているが、ボンビカール受容体の発現量に異常は無いことを明らかにした。(4)細胞内記録および染色法によりOrlとOr3を発現する嗅覚細胞の軸索の脳内における投射をacj6変異体において解析した結果、acj6変異体ではOr3を発現する嗅覚細胞が通常はOr1を発現する嗅覚細胞の軸索が特異的に投射する領域であるトロイドに異所的に投射していることを発見した。(5)以上の結果により、転写因子Bmacj6は、性フェロモン受容体の発現を正の方向に制御していること、性フェロモン受容体を発現する嗅覚細胞の軸索の投射領域を制御していることが解明された。(6)鱗翅目昆虫では、近縁種間や個体群間で性フェロモン応答性の異なる例が多く報告されているが、そのメカニズムは未解明である。本成果は、鱗翅目昆虫のモデルであるカイコの性フェロモン応答性を支配する遺伝子を特定して、その機能を解明した点に意義がある。
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