本研究は、原子間力顕微鏡(AFM)によるタンパク質1分子力学計測を駆使し、タンパク質の機械的安定性やその機能との相関を自由エネルギー地形に基づき定量的に理解することを目的としている。本年度は実験系の確立に主眼を置いた。タンパク質1分子力学計測では目的タンパク質を基板-カンチレバー間に強固に結合させる必要がある。固定化には金表面とNあるいはC末端に導入したシステイン残基とのAu-S結合を利用する方法等が従来からよく用いられてきたが、この方法は内在性システインを含むタンパク質には適さない。そこで、新たにHaloTagを用いてタンパク質をマイカ基板上に固定化する方法を考案し、1分子伸長実験へと応用した。HaloTagはバクテリア由来のハロアルカンデハロゲナーゼを遺伝子改変して作られた市販のタグタンパク質で、リガンドとの間に安定な共有結合を形成する。我々はリガンドをPEGリンカーを介してマイカ表面に化学修飾し、そこにHaloTag-I27_4融合タンパク質を加えた。1分子力学計測で得られたフォースカーブの解析から融合タンパク質は狙い通りHaloTagとリガンド間の結合により部位特異的に固定化されていることを示した。加えてHaloTagタンパク質のアンフォールディング中間状態を2種類観測した。以上から本手法はタンパク質1分子力学計測における固定化法として有効であることが示された。これにより内在性システインをもっタンパク質についても1分子力学計測による研究の進展が期待される。
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